特別寄与制度 ~被相続人の面倒を見てきた方へ遺産を分ける~
夫の親(義父)が老人ホームに入るのを嫌がったため、妻が義父の介護をしている・・・といった話をよく耳にします。以前は、妻がどれだけ献身的に介護をしていたとしても、義父の相続人にはなれないため、相続財産をもらうことができませんでした。
しかし、2018年7月に相続法が改正され、2019年7月以降に発生した相続については、相続人以外の親族が無償で被相続人の介護を行なっていた場合に財産がもらえる「特別寄与制度」が制定されました。
今回は特別寄与制度の概要や手続きの方法、特別寄与制度と相続税の関係などを詳しくご説明いたします。
(目次)
特別寄与制度とは、被相続人(亡くなった方)に対して無償で療養介護やその他労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加に特別な寄与をした被相続人の親族が、相続人に対して金銭の請求をできる制度です。
民法には以前から「寄与分」の制度があり、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護やその他の方法で被相続人の財産の維持または増加に特別な寄与をした相続人がいれば、その寄与分に応じて財産をもらうことができました。
しかし、この寄与分の対象は相続人のみで、相続人以外の親族が寄与をしたとしても、寄与分を請求することはできません。
このように、寄与分の制度では相続人以外の親族が不公平な思いをしてしまうため、2018年7月に「特別寄与制度」が創設されました。
なお、特別寄与制度の対象となるのは、2019年7月1日以降に発生した相続についてです。
特別寄与制度を利用するためには、以下の3つの要件を満たしていなければなりません。
・被相続人に対して無償で療養看護やその他の労務を提供したこと
・被相続人の財産の維持または増加に特別な寄与をしたこと
・相続人以外の親族であること それぞれの要件について具体例を交えてご説明していきます。
それぞれの要件について具体例を交えてご説明していきます。
2-1 要件① 被相続人に対して無償で療養看護やその他労務を提供したこと
特別寄与の第一の要件は、療養や看護、その他の労務が無償で行われたことです。
しかし、健常な被相続人に対しての家事援助や、老人ホームに入居している被相続人を毎日訪問して世話をしていただけでは特別寄与として認められません。特別寄与として認められるためには、被相続人と特別寄与者との関係において通常期待されるような程度を超える貢献が必要とされています。
例えば、被相続人と特別寄与者が同居し、外部の介護サービスを受ける必要がないほど献身的に介護をしていた場合などがこれに当たります。
なお、介護の際に対価を受け取っていた場合や、被相続人の事業を手伝った際に給与をもらっていた場合などは、「無償」の要件を満たさないため、特別寄与が認められませんので注意しましょう。
2-2 要件② 被相続人の財産の維持または増加に特別な寄与をしたこと
2つ目の要件は、無償の療養看護やその他の労務によって、被相続人の財産を維持または増加させたことです。
例えば、特別寄与者が献身的に介護をしたことにより外部の介護サービスを利用する機会が減れば、そのサービス利用料を節約できたことになります。
また、被相続人の経営している店を無償で手伝っていた場合は、給料の節約になり、店の売り上げにも貢献したと考えることもできます。
このような場合は、被相続人の財産の維持または増加において特別な寄与をしたと言えるでしょう。
特別寄与は相続人ではなく「相続人以外の親族」にのみ認められます。
親族とは、6親等以内の血族と3親等以内の姻族のことです。
血族には生物学的な血縁関係の他に、養子縁組などの法律的な血縁関係も含まれます。
また、姻族とは配偶者の血族と被相続人の血族の配偶者のことを言い、内縁の妻や夫は含まれませんので注意してください。
特別寄与者としてよくあるのは、被相続人の子の配偶者(1親等の姻族)が介護をしていたケースです。
その他にも、被相続人の孫の配偶者(2親等の姻族)や被相続人の配偶者の兄弟(2親等の姻族)なども特別寄与者になり得ます。
一般的に、特別寄与料は遺産分割協議の際に相続人に請求します。遺産分割協議とは、相続人全員で「誰が、何を、どれくらい相続するか」を話し合うことです。
相続人が特別寄与者の請求に応じてくれた場合は特別な手続きをする必要がありませんが、万が一請求に応じてくれなかった場合、特別寄与者は「家庭裁判所による処分」を申し立てることができます。家庭裁判所への申立てについては以下の通りです。
もし、相続人が特別寄与料の請求に応じなかった場合、特別寄与者は家庭裁判所に対して協議に代わる処分を申し立てることができます。
申立先は、相続が開始した地域を管轄する家庭裁判所です。
申立てがされると、家庭裁判所は相続人と特別寄与者の事情を調査した上で、相続人に対して特別寄与料の支払いを命ずることができます。
なお、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月、または相続が開始してから1年が経過すると申立てができなくなってしまいますのでご注意ください。
特別寄与料の金額は、相続人と特別寄与者との話し合いによって決められますが、話し合いがまとまらず家庭裁判所に申立てをした際は、家庭裁判所が金額を決めることになります。
請求額は一般的に以下の計算式で算出します。
請求額=療養看護を行なった場合の報酬相当額(A)×療養看護をした日数(B)×裁量割合(C)
(A)は同等の介護サービスを看護や介護の有資格者が行なった場合の1日の報酬額、(B)は特別寄与者が療養看護に充てた日数のことです。
しかし、被相続人の介護は外部の有資格者が行なったわけではありませんので、(C)の裁量割合として0.5〜0.8を掛けて調整します。
例えば、1日あたりの報酬が6000円、療養看護をした日数が1000日、裁量割合を0.6とした場合、特別寄与者の請求額は6000円×1000日×0.6=360万円となります。
なお、特別寄与の金額は被相続人が相続の開始時に持っていた財産の価格から遺贈の価格を引いた残額を超えることはできません。
特別寄与料の請求をする際は、介護をしていたことがわかる証拠があると話し合いがまとまりやすくなります。寄与の内容が具体的に分かるように、被相続人の生前から詳細な介護日誌をつけておくことをおすすめします。
特別寄与料を受け取った人は、相続人でないにも関わらず相続税を支払わなければなりません。
これは、特別寄与料は被相続人からの遺贈により取得したものとみなされるためです。
また、特別寄与の取得によって支払う相続税は、普通の相続税とは異なった扱いがされているため注意が必要です。
以下では特別寄与料にかかる相続税についてご説明します。
普通の相続とは違って特別寄与料を受け取る人は法定相続人ではありませんので、相続税の2割加算制度が適用されます。
相続税の2割加算とは、その人に対して発生する相続税額に2割上乗せした金額を納税しなければならない制度です。
2割加算の対象となるのは、特別寄与者が被相続人の配偶者及び1親等の血族以外の場合です。したがって、ほとんどの特別寄与者が対象になるかと思います。
特別寄与料にかかる相続税を計算は、先に被相続人の財産全体にかかる相続税を算出し、それを相続人同士で按分して行います。
大まかな計算の流れは以下の通りです。
①相続財産と法定相続人を調査・確定する
被相続人にどのような財産があって、誰が相続人になるのかを詳しく調査します。ただし、特別寄与者は法定相続人には含まれません。
②相続税の基礎控除額を算出する
基礎控除とは相続税がかからないボーダーラインのことです。相続税の基礎控除額は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で算出できます。
例えば、被相続人の法定相続人が妻と子2人の3人だった場合、基礎控除額は3000万円+(600万円×3人)=4800万円となります。
③基礎控除額と相続財産のどちらが大きいかを比較する
②で求めた基礎控除額と相続財産のどちらが大きいかを比較します。相続財産には特別寄与者が受け取った特別寄与料も含まれます。
基礎控除額の方が大きい場合は相続税がかかりませんので、これ以上計算する必要はありませんが、基礎控除額よりも相続財産の方が大きい場合は、基礎控除額を超えた部分に相続税がかかります。
④課税対象となる相続財産を法定相続分で分割したとして、各相続人の相続税を計算する
相続税の速算表をもとに、法定相続分で分けた場合、各相続人の税額がいくらになるのかを計算します。
【相続税の速算表】
課税価格 |
税率 |
控除額 |
1000万円以下 |
10% |
― |
3000万円以下 |
15% |
50万円 |
5000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1700万円 |
3億円以下 |
45% |
2700万円 |
6億円以下 |
50% |
4200万円 |
6億円超 |
55% |
7200万円 |
⑤④で計算した相続税額を合計して、実際の相続割合で分け直す
このとき、特別寄与料を支払った相続人(特別寄与料を支払うことによって相続財産が減った相続人は)に対しては、その相続人にかかる相続税の課税価格から特別寄与料を差し引いた価格をもとに相続税の総額を案分して計算します。
なお、相続税の申告後に特別寄与料を支払うことになった相続人は、寄与料の確定から4ヶ月以内に更生の請求をして、余計に納めた相続税を返してもらうことができます。
⑥特別寄与者の相続税額を1.2倍する
特別寄与者は相続税の2割加算の対象となるため、⑤で求めた相続税額を1.2倍した額を納税します。
相続税の納税が必要な場合は、特別寄与料の金額が決定した日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告・納税を行わなければなりませんのでご注意ください。
今回は特別寄与制度の概要や手続きの方法、特別寄与制度と相続税の関係などをご説明いたしました。
被相続人に寄り添って力を尽くした親族が、その対価として被相続人の財産を受け取ることができるため、介護を行なっている方々にとっては非常に嬉しい制度です。
しかし、要件の厳しさや相続人との話し合いが必要なこともあり、特別寄与者として認められないケースも少なくありません。「長い間介護に努めてきたのに財産がもらえなかった」ということにならないために、日頃から介護日記を付けておくことをおすすめします。
また、介護をしてくれた親族に財産を遺してあげたい場合は、意思能力があるうちに遺言を書いておくことも有効な手段です。
遺言で遺贈する場合も、特別寄与料を請求する場合も、二割増しの相続税がかかることを認識していただき、事前にシミュレーションをしておくことも大切です。
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