国や地方公共団体、公益法人等への寄付で相続税を節税
近年、「終活」という言葉が注目されるようになり、自分の死後に自分の財産をどのように扱って欲しいかについて考える機会が増えました。
そのような中で、自分の所有している不動産を「お世話になったから恩返しがしたい」「困っている人に使って欲しい」という理由で、国や地方公共団体、あるいは公益法人等に寄付するケースが多くなっています。
自由な遺産分与の考え方から寄付を選ぶ方が増えていますが、実は不動産を寄付することで相続税の節税も期待できます。
今回は、遺産を寄付する方法や相続税との関係、寄付をする際の注意点について詳しくご説明していきます。
(目次)
通常、相続税は被相続人の遺産が「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除額よりも大きい場合にかかります。
しかし、遺産を国や地方公共団体、特定の公益法人等へ寄付した場合は、寄付した遺産にかかる相続税を減額することが可能です。
相続税の寄付に関する特例によって減額できる相続税は、「寄付した財産の相続税評価額×相続税率」でおおよそ知ることができます。
例えば、財産を相続した結果、遺産に対して20%の相続税がかかるケースで、特定の公益財団法人に200万円の現金を寄付したとします。
この場合の非課税額は200万円×20%=40万円となるため、寄付をしなかった場合の相続税より40万円相続税が安くなる見込がたちます。
遺産を寄付する方法は以下の2通りです。
遺言とは、遺言者が自分の死後に遺産をどのように分け与えたいかについて記した手紙のことです。
遺言は財産を所有していた本人の意思によって書かれるため、法律で定められた相続分よりも優先されます。
したがって、遺言に書いてある内容はほとんど確実に実現されると言っても良いでしょう。
例えば、遺言書に「A不動産を学校法人〇〇に遺贈する」と書いた場合、A不動産は学校法人〇〇に寄付されることになります。
お世話になったから恩返しがしたい、困っている人に使って欲しい、人生の最後に社会貢献したいなどの想いがある場合は遺言による寄付を検討してみましょう。
なお、相続税が減額になる特例が受けられるのは、原則として法人に寄付する場合のみです。
個人に寄付する場合は、「寄付先の個人が宗教や慈善、学術その他公益を目的とする事業者で寄付により取得した財産を当該事業のために使っていた場合」で、それ以外は相続税がかかりますのでご注意ください。
これは、被相続人の遺産を受け取った相続人が、その財産を個人や法人に寄付する方法です。
相続人からの寄付による相続税の減額の特例を受けるためには、以下の要件を満たしている必要があります。
【要件】
①相続や遺贈によって取得した財産を寄付すること
②寄付した先が国、地方公共団体、特定の公益法人であること
③相続税の申告期限までに寄付すること
④相続税の申告書に明細書と寄付金の証明書を添付すること
①相続や遺贈によって取得した財産を寄付すること
相続税非課税の特例が適用されるのは、寄付財産が被相続人から相続したもの、または被相続人の遺言により受け取ったものである場合に限ります。
この寄付した財産には、相続や遺贈で取得したとみなされる生命保険金や退職手当金も含まれます。
②寄付した先が国、地方公共団体、特定の公益法人であること
寄付先である国や地方公共団体については想像しやすいですが、特定の公益法人とは何か分からない方も多いと思います。
特定の公益法人とは、教育または科学の振興や社会福祉への貢献が著しいと認められている法人のことを言います。具体的には以下のような法人です。
【特定の公益法人】
●独立行政法人
●日本赤十字社、自動車安全運転センター
●公益社団法人、公益財団法人
●国立大学法人、公立大学法人、一定の学校法人
●社会福祉法人
●更生保護法人
③相続税の申告期限までに寄付すること
相続税の申告期限は、相続の開始を知った時から10ヶ月です。
申告期限を過ぎてからの寄付は、相続税非課税の特例を受けることができませんので、寄付をする場合は早めに行うようにしましょう。
④相続税の申告書に明細書と寄付金の証明書を添付すること
相続税非課税の特例を受けるためには、相続税の申告書に寄付財産の明細書や一定の証明書類を添付しなければなりません。
寄付を受けたことの証明や寄付財産の明細等について記載された書類が寄付先から発行されますので、それを申告書に添付します。
また、寄付先が地方独立行政法人や学校法人の場合は、特定の公益法人に該当することの証明書類も必要になります。
※不動産や有価証券を売却して現金に変えてから寄付をすると税金がかかってしまいますのでご注意ください。
寄付をする際は、以下の2点に注意して行いましょう。
寄付した財産が現金の場合は課税されませんが、不動産を寄付した場合は「みなし譲渡所得税」が課税される可能性があります。
譲渡所得税とは、不動産を取得した価格よりも高い価格で売った場合に、その利益(譲渡所得)に対してかかる税金です。
本来、寄付は無償で行われるため譲渡所得税はかかりません。この考え方に基づくと、その不動産が値上がりした場合に本来負担するべき所得税を回避することができます。
このような税負担の回避が行われないように、不動産の寄付については譲渡所得があったものとみなし、所得税を課税します。これが「みなし譲渡所得税」です。
みなし譲渡所得税では、その不動産を取得した時の価格から寄付するときの時価への値上がり益(譲渡所得)に対して税金がかかります。
例えば、取得した時は5000万円だった土地が、寄付する時の時価が8000万円に値上がりしていたケースを考えてみましょう。
この場合、寄付であり売買ではないため譲渡所得は発生していませんが、時価8000万円で譲渡したと「みなし」、差額の3000万円に対してみなし譲渡所得税が課税されることになります。
ただし、個人から公益法人等に対して行われる不動産の寄付に関しては、みなし譲渡所得税がかからない可能性があります。
みなし譲渡所得税がかからないのは以下の条件を満たす場合です。
【要件】
●その寄付が教育または科学の振興や文化の向上、社会福祉への貢献が著しいと認められていること
●寄付があった日から2年を経過する日までにその公益法人等が公益を目的とした事業のように供され、または供される見込みであること
●その寄付が寄付をした人の所得税を不当に減少させ、または寄付した人の親族その他これらの人と特別な関係がある人の相続税や贈与税を不当に減少させる結果とならないこと
3-2 注意点②他の相続人から遺留分を請求される可能性がある
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障される最低限の相続分のことです。
法定相続人は被相続人の遺産を相続する権利がありますが、遺言によって他の人に財産が寄付されてしまうと、本来受け取ることができるはずの遺産がなくなってしまいます。
このような場合に、不利益を被った相続人が寄付を受けた人に請求できるのが「遺留分」です。
しかし、遺留分の請求がされると、被相続人の意思で遺言による寄付をしたにもかかわらず、意思に反して寄付先とのトラブルにもなりかねません。
そうならないために、法定相続人の遺留分を侵害しない範囲で寄付する財産や遺産分割を決めていく必要があります。
法定相続人それぞれの遺留分をあらかじめ計算し、遺留分を侵害しないような遺言の作成を専門家に依頼することも有効な手段です。
ここまで、財産を寄付する方法や要件、注意点などをご説明してきました。
では、確実に思いを実現させるための寄付をするには、実際にどのような対策を取っておくべきでしょうか?
ここでは、寄付を成功させる2つのポイントをご説明いたします。
遺言による寄付を検討している場合は、遺言を作成する前にあらかじめ寄付先と話し合っておくことをおすすめします。
寄付先との話し合いをせずに寄付を決めてしまうと、寄付先としては、被相続人が亡くなって初めて寄付があった旨の連絡を受けることになるため、かえって迷惑となってしまう可能性があります。
寄付を受ける側にも準備がありますので、あらかじめ寄付する旨と財産の内容などを寄付先に話しておきましょう。
2つ目のポイントは相続税がどれだけかかるか、相続人の遺留分はどれくらいかを計算しておくことです。
相続税は、被相続人の遺産が「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除額より大きい場合に課税される税金です。
当然、多くの人がこの相続税をできるだけ減らしたいと考えています。
したがって、遺言による相続を検討している場合は、相続人の負担を軽減するために、どの財産をどれくらい寄付すれば相続税の減額につながるかシミュレーションしておきましょう。
◇◆基礎控除額◆◇
法定相続人が3人の場合の相続税の基礎控除は、
3000万円+(600万円×3人)=4800万円となります。
◇◆課税遺産総額◆◇
被相続人の財産8000万円-基礎控除額4800万円=3200万円
に対して相続税が課税されます。
◇◆相続税の総額◆◇
相続税額は、課税対象額を法定相続分で分けたと仮定して計算します。
■法定相続分
①妻:1/2
②子1:1/4
③子2:1/4
■課税対象額
①3200万円×1/2=1600万円
②3200万円×1/4=800万円
③3200万円×1/4=800万円
◇◆相続税率◆◇
課税対象額が
1000万円以下のときに10%
3000万円以下の場合は15%、この金額から50万円の控除
があります。
◇◆相続税額◆◇
①妻:1600万円×15%−50万円=190万円
②子1:800万円×10%=80万円
③子2:800万円×10%=80万円
被相続人の相続税総額=350万円
相続税の総額350万円を、各自が取得した実際の財産の比で按分して各自が相続税を支払うことになります。
このケースで遺言により1200万円の寄付をしていたとすると、全体の課税財産が6800万円(8000万-1200万)となり、相続税の総額を計算するための妻の課税価格は1000万円となるので、適用される相続税率を15%から10%に引き下げることができます。
このように、どの財産をどれくらい寄付すると相続税が減るのかをシミュレーションしておくことで、相続人の負担を軽減することができます。
また、法定相続人の遺留分を考慮した遺言作成も非常に重要です。
上記事例では、遺留分が配偶者、子それぞれ法定相続分の1/2の権利を持ちますから、配偶者法定相続分は1/2×1/2=1/4、子はそれぞれ1/4×1/2=1/8となります。
遺留分の配慮がされていない遺言の場合、遺留分を侵害された相続人は寄付を受けた人に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます。
そうすると、寄付を受けた人にとっては予想もしない請求を受けることになり、もし寄付された財産が売却の難しいものである場合には、請求額の支払いに苦労するかもしれません。
遺言は被相続人の意思によって自由に書くことができますが、遺留分を侵害する遺言は、侵害された相続人だけでなく寄付を受けた人にも迷惑をかける可能性がありますので、遺留分を考慮した遺言を作成しましょう。
今回は、財産を寄付する方法や注意点、寄付を成功させるためのポイントについてご説明しました。
自分の死後について意識することが増えた現在、遺言による寄付の件数は年々多くなっています。
遺言による寄付は被相続人の意思を尊重するだけでなく相続税の節税にもつながりますが、相続税を効果的に減らすためには相続税シミュレーションや遺留分の計算を行うことが重要なポイントです。
しかし、相続税や遺留分は被相続人の財産状況や家族構成によって異なり、とるべき対策も人それぞれ違います。
自分の死後、その財産を社会的に役立てたいと遺言を残してみたものの、実際に遺言を執行する際には遺言の内容に矛盾が生じていたり、課税の問題に悩まされて、生前考えていたようにな寄付ができなかった…という大変残念なケースも少なくありません。
もしも、相続税の計算や遺言の書き方に不安がある場合は、相続税に詳しい税理士等の専門家に相談することで、その思いを確実に相手に届けることが可能です。
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