東京ペットホーム 取材レポート
京急蒲田駅から森が崎海岸公園方面に歩くこと19分、産業道路沿いに見えてくるのが東京ペットホームである。
こちらの施設では、認知症や寝たきり等の事情で飼育が困難になってしまった老犬・老猫の受入れを行っており、経験豊富な専門スタッフの皆様が365日体制で介護にあたっている。
犬・猫の『まぜ飼い』はせず、老猫用の1号館、老犬用の2号館と建物を分け、鳴き声によるストレスや感染症予防の対策を行っているのも特徴の一つだ。
動物の医療も進歩した分、ペットの高齢化も進んでいる。
人間と同じように、身体機能も衰えるし、病気や認知症になってしまうペットも増えている。
飼い主も高齢だったりすると老々介護で精神的に追いつめられ、“この子と共倒れになるか、捨ててしまうか”と考えてしまう人も少なくない。
東京ペットホーム代表の渡部帝さんは、『“飼えなくなったから金づくで、取りあえず引き取ってもらう”というネガティブな解決手段ではなくて、“一緒に暮らすことは出来なくなってしまったけれど、家族が家族のまま、自分はこういう風に愛情をかけてきたんだ”という想いを受け継いでくれるような施設を作りたい』と、4年前にペットの介護施設事業を起ち上げた。
当初、世間からは老犬ホームというのは従来型の引取り屋に毛が生えたようなものだと認識されていたそうだ。
そんな中、家の中で家族として暮らしていたペットだったら、“きちんと、明確に飼い主さんとの縁が切れない、里親という手段とは違って、絆が切れない老犬・老猫ホーム”を目指し、これまでペットたちに惜しみない愛情を注いできた。
施設内を気持ちよさそうに過ごす犬たちに向けられる温かい眼差しから、渡部さんの想いの強さが垣間見える。
施設立ち上げに関する想いや、ペットを介護することの大変さについて、詳しくお話を伺ってみた。
東京ペットホームを立ち上げた想い
渡部さんはもともと工務店の経営者で、ペットを保護することは奥様が希望していたことなのだそう。
しかし、保護猫・保護犬だと動物愛護センターやボランティア団体等とのご縁に限られてしまうため、思い切って事業としてやったほうがいいのでは?と渡部さんが提案したという。
当時の老犬老猫ホームはほぼ山の中にあり、「飼えなくなったとき、お金がある人もない人も等しく、どこに行って何をしていて、生きているのかどうかも分からないのではおかしいのではないか?」と非常に強く思っていたという渡部さん。“今ある老犬・老猫ホームは十分に飼い主さんの要望に応えられているのか?” 、“実際に面会には行けるのか?”と常に疑問に思ってきたという。
そこで渡部さんは、東京ペットホームは都内に作って、「面会はいつでもOKですよ。駅まで送迎もします。その代わり、なるべくたくさん会いに来てくださいね」という環境をつくった。まさにここは、ペットたちの“終の棲家”ではなく、“第二の我が家”である。
実際に殆どの飼い主さんが「東京ペットホームに預けてよかった!」と仰るそうだ。
代表の渡部帝さん
動物の介護は想像以上に困難だ。その真っ只中の飼い主は非常にネガティブになり、精神的に追いつめられてしまう人が多い。しかし、飼い主から―“「預けてみて分かったけど、ここに預けることで自分を取り戻すことができたし、この子もすごく暗い顔をしている自分の顔色を伺いながら、無理矢理飼われているより、ここでマイペースに暮らしている方が幸せそうだ」”―という言葉をもらう時、渡部さんは『老犬ホームの存在意義』を痛切に感じるという。
「犬や猫は言葉はしゃべれなくても一生懸命、目は見て観察するはずですから。
すごく暗くなってしまっている飼い主さんの気持ちにはすごく敏感だと思います。
そういう全部の方に老犬ホームがマッチする訳ではないとは思うのですが、やってみると“僕はこれができますよ”というものと、“これを望んでいるんです”というものがマッチできるご縁が多くて…そういうところでは、“やり始めてよかったな”と振り返って思っています。」
介護スタッフの皆様
施設の受入れ可能頭数
ペットを預ける人の7・8割はご年配の方。残りの2・3割は若い方で、親が飼っているペットの心配をしていたり、結婚・出産・転勤などで飼えなくなったり…という理由で預けに来ている。
現在、本館の猫の施設2か所に20頭、2号館の犬の施設に7頭受入れをしている。猫は問い合わせが多く、受け入れも多い。最大 犬22頭、猫25頭受入れ可能。
1号館でのお世話の様子
2号館でのお世話の様子
介護度について―飼い主さんとの話し合いを大切に―
介護度については、飼い主さんとの面会中に、相談で決めているとのこと。
「ステージが上がってしまうのであれば、相談に於いて決めています。勝手にこちらのほうで、こうなったから上がりました、ということはありません。」と渡部さん。
介護度は軽度・中度・重度と分かれており、下記を判断基準としている。
◎軽度…排泄が困難、おむつしていなければ過ごせない、排せつのコントロールが利かなくなっている状態。
◎中度…認知症を発症し、夜鳴きも徘徊もあり目が離せない。何とか立てるけど斜頸が始まっている、ご飯を補助してあげないと食べられない状態
◎重度…寝たきりの状態。東京ペットホームで預かっている老犬・老猫は軽度が多く、重度は寝たきりの柴犬1匹とのこと。
飼い主さんからも治療上進んでいることをご確認頂いてから、介護度を決めているのだそう。これならば納得したうえで、安心して介護をお願い出来る。
重度の介護の柴ちゃん
介護の様子を見学
ノーリード広場では3、4匹の老犬たちが日向ぼっこをしたり、眠ったり、歩き回ったりと思い思いに過ごしている。
介護士のスタッフさんが1頭ずつ丁寧におむつ交換や耳かき、食事介助等を行っていく。
渡部さんから、奥の個室にも案内して頂くと、ドーナツのように丸まって眠る柴犬が目に入った。ずっと寝たきりになっているそうで、この体勢が一番楽らしい。
「介護は教科書がありません。この子によってこの角度が完璧、とかはないんです。
ですから、座学には、全く意味がないと思っています。うちに色々インターンの子が来ますが、要介護犬と触れ合える場所というのは老犬ホームくらいしかないので、貴重な機会だと思います。」
…半日渡部さんのお話を伺って、動物の介護は人間の介護と同じくらいに身体的にも精神的にも大きな負担になるのだと感じた。
ペットを飼うときは是非、病気や認知症などで介護が必要になっても最期まで愛してあげられるのか、お世話をしてあげられるのか、きちんと考えてから家族として迎え入れてほしい。
スタッフさんによる愛情たっぷりの介護
【代表の渡部さんに聞いてみた】
渡部帝さん、まいこさんご夫妻
サポーターに賛同して頂いた理由
「これはお互いがそうだと思いますが、多面的に見ていかないと根本的に解決しない問題ですよね。
業種を超えて、色々とコラボしていけるとお互いのためにもなるし、相談者のためにもなると思えるのが『ペット安心相談室』です。
老犬ホームひとつに取ったって、うちみたいな都市型が老犬ホームということじゃなくて、費用が安くて、例えば若いワンちゃんを預けたい時にどうしてもドックランで走り回らせたい場合は、山の中の方がいい選択だったりします。
これが正解というよりは、多様性に富んだあらゆるニーズに対応していく必要があると思っています。老犬ホームひとつとっても、(老犬ホームというのは)一つの手段でしかないですよね。
『飼えなくなるかもしれない、だから自分は安心したい。』『今ペットを取り巻くインフラというものは、どうなっているのか?』という感じで、せっかく社会的に関心が高まっている中で、私たちのやっていることを見て安心してもらえるなら嬉しいし、例えば、財産をペットのために使いたいなど、法的な手段に関してはペット安心相談室があるので具体的に相談してください、法律家の方々がいらっしゃいますよと繋ぐことができますよね。
相談室の提携先などの里親の保護団体の方たちもいて、色々な意味で業種というものを飛び超えて刺激を受け合って、もっともっとよくなっていくべきと思っています。
ペット安心相談室の皆さんもそういったことを真剣にお考えなので、それはもう賛同します。」
“ペットを飼う”ということについて、きちんと考えてほしいこと
「ペット業界全体として、ペットを飼うことを考えたときに、『老後のことをきちんと考えないと飼えない』という意識改革があって欲しいですよね。例えばペットショップから犬を買う場合に、きちんとした事前説明と老後のことをしっかり考えてない人には売れないような仕組みがあるのが理想です。なかなか難しいと思いますが…。
今までのご相談では、要介護のワンちゃんは柴犬が圧倒的に多いですね。データで実証されているわけではなく、あくまで実感ですが、寝たきりや認知症になるリスクが、洋犬よりも何倍も高いと感じています。
ただ、とにかく柴犬というのは洋犬に比べて圧倒的に手がかかることは事実間違いないですね。というのも、シバちゃんはけっこう大きいし、例えば70歳の人が飼ったとき15年後、十何キロのワンちゃんを1日中ひっくり返したり、おむつ替えたり、85歳くらいの人が出来るのか?ということを考えて飼った方がいいと思います。」
HPを見てくださった方へのメッセージ
「老犬ホームの見学は随時行っています 。利用する可能性がなくても、知ってもらうだけで大歓迎です。」
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