子息に承継する場合の贈与税・相続税を意識した株式の移動方法について
事業承継には、親族内承継、親族以外の役員・従業員への承継、外部へのM&Aによる承継等様々な方法があります。
今回は、親族内承継、特に子息に承継する場合の贈与税・相続税を意識した株式の移動方法について
良く使われる手段と税務面を中心に留意すべき事項の概要をご紹介します。
~ご自身から子息への株式の承継~
会社の代表からの勇退は、ご自身の決断と子息への経営者としての教育度合及び成長次第で、いつでも実行することができます。
一方で株式の承継は、方法やタイミングを誤ると余計な納税が発生する可能性があるので慎重に進める必要があります。
主に税務面で
●暦年贈与による株式の贈与
年間110万円の贈与税無税の範囲内で毎年株式の移転を移転する方法で、相続発生まで比較的時間的余裕がありそうな場合に有効です。
また、例えばご自身の他の財産を洗い出して、相続発生時の相続税シミュレーションを組んだうえで、その結果予測される相続税率と比較して有利な贈与税率の範囲内で贈与を進める事も有効です。
なお、代表取締役を退任したタイミングで退職金を発生させることで株価を大幅に下げることができるため、そのタイミングで一度に多数の株式を贈与することもできます。
●相続時精算課税制度を用いた株式の贈与
相続時精算課税制度を用いて、株式評価額2,500万円まで贈与のタイミングで無税で株式を贈与することができ、相続発生時に、その贈与時点の株価で固定したうえで相続財産として相続税の計算に含める方法です。(なお、2,500万円を超えた場合には一律20%の税率がかかりますが、相続発生時に前払分として精算されます。)
将来にわたって継続的な利益の計上や業績の上向きが見込めるような場合に、相続発生時の相続税額計算において贈与時点の低い株式評価で計算することができるため、有効です。
●事業承継税制を用いた株式の贈与
2014年7月3日の記事で紹介している贈与税の納税猶予制度を用いた株式の贈与を行う方法もあります。一定の要件を満たすことで、一定数の株式を後継者に贈与することができ、事業を続ける限りその贈与税の納税を猶予することができるという制度です。
要件を満たして事業を続ける限り納税負担が発生しない一方、要件を満たさなくなった場合には納税を猶予されていた贈与税とその期間分の利子税を合わせた税負担を余儀なくされたり、一定期間毎年の関係省庁への継続の旨の報告が必要であったり等、中小企業にとっては画期的な株式承継方法であった一方、上記のようになかなか導入が進まない要因がありました。
そのような中で、平成29年度税制改正にて、相続時精算課税制度との併用が認められることとなり、要件を満たさなくなり納税を余儀なくされた場合の贈与税負担を減らすことができるようになりました。
また、2017年5月31日の記事にあるように、他の相続人からの遺留分減殺請求対象から外すこともできる「民法の特例」を併用することでより有効に活用することができます。
●持株会社を用いた承継
後々遺留分等の問題が生じて後継者の株式のスムーズな承継が困難となりそうな場合などには、子息が持株会社を設立して、その持株会社にご自身が所有している現存の会社の株式を譲渡しておく方法もあります。
具体的には設立された持分会社が、金融機関等から資金を調達する等の方法で、ご自身(前経営者)が所有する現存の法人の株式を買い取ります。持株会社は現存の会社から配当を受けたうえで金融機関等への弁済に充てていくことになります。
事業承継税制のように関係省庁への継続の報告等の手間はありません。資金調達の見込みがあり、また、現存の会社が継続して利益を生み出し、配当を発生させる資力が保たれる見込みである場合等に有効です。
税務面以外の論点で
●種類株式や民事信託を用いた会社支配の継続
相続税対策のために株式の移動を早く進めたいが、まだまだ子息の経営に信頼がおけないというような場合には、拒否権付株式(いわゆる黄金株)を発行したうえで所有したり、民事信託を活用する(自身を受託者、子息を受益者とし、ご自身は株式の所有権を保ち続ける)等様々な方法が考えられます。
方法によっては、上記事業承継税制との併用が困難となりうる等、税務面で問題が生じる可能性があるので、両にらみで検討を進める必要があります。
事業承継は、ご自身の想いはもちろんのこと、会社が現在内的・外的に置かれている状況等だけでなく、税務面のメリットも意識したうえでさまざまな方法を検討していく必要があります。
ソレイユ相続相談室では、ご自身の想いと会社の将来を見据えた後継者への事業承継を実現するお手伝いをさせていただければと思います。
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