美しが丘動物病院 取材レポート|ペット安心相談室
東急田園都市線たまプラーザ駅北口から虹が丘営業所行のバスに乗ると、10分ほどで『蓬谷戸』のバス停に到着する。下車して保木公園に向かって2分ほど歩くと、手前に『美しが丘動物病院』が見えてくる。
美しが丘動物病院は、2011年2月開業した。付近は緑が多く静かで、木漏れ日のもとで気持ちよさそうに散歩をしているワンちゃんと飼い主が多く目に入った。
病院の扉を開けると、待合室には温かい日差しが差込み、公園から小鳥のさえずりが聞こえてくる。清潔感があって居心地が良い。
院長の柏木先生とともに、看板娘のニコちゃんがお出迎えしてくれた。聞くところによると、こちらのニコちゃん(13才)はもともと奥様が飼っており、開業の頃からずっと看板娘として活躍しているそうだ。
穏やかな雰囲気がとても印象的な柏木先生は、ペット(動物たち)の健康に少しでも関心を持ってもらおうと、毎月院内でイベントを開催するほど動物たち(ペット)の健康に熱い想いを持っている。飼い主とペットに対して真っ直ぐに向き合う姿勢で、飼い主からの信頼も厚い。
そんな柏木先生に、動物医療にかける想いなどを詳しく伺ってみた。
柏木先生が獣医師になろうと思ったきっかけ
質問をすると、「そこから!?」と柏木先生は笑顔を見せながら語ってくれた。
「お約束ですけど、小さい頃から動物が好きだった。あとは、自分の家のワンコが死んでしまったときに、“何で死んじゃったんだろうな?”ということですね。今思えば、その理由はフィラリアだったんだろうけど」。
今から34、5年前、柏木先生が4つか5つくらいの時の話だ。その頃は、外に鎖でつないで番犬として飼っているのが普通だった。
知らない間に親が連れて行ったかもしれないが、先生自身が病院に連れて行った記憶はないという。連れていける動物病院も今よりはずっと少なかった――現在のペットの飼い方とは違う時代だった。
「その次に飼った犬を病院に連れて行ったのは覚えていますね」。
「フィラリア」が原因で死んでしまったとすると、現在であれば定期的に病院へ連れていき、予防していれば最初のワンコが死ぬことはなかっただろう。柏木先生の言葉のとおり、「そういう時代」からペットの飼い方も徐々に変わっていった。
柏木先生が小さい頃にご実家で飼っていた犬の名前は「ロン」という。その次に飼った犬の名前も「ロン」と名付け、庭で番犬をしていた初代ロンから何代も続いているのだという。
きっと、柏木先生は心のどこかに「その時にフィラリアを予防する知識があれば」という想いを初代ロンに対して持っていたのではないだろうか。
最初に一緒の時間を過ごし、獣医師を目指すきっかけにもなった「ロン」の存在をつないでいるように思えてならない。
院長の柏木龍先生
犬・猫の年齢と寿命
柏木先生によれば、看板娘ニコは現在13歳だという。これは人間でいうと68歳くらいの年齢だ。
犬・猫は、最初の1年~1年半で人間でいう成人――成犬・成猫となる。(大型犬だともっと早い)犬や猫を飼っている人には最早常識であろうが、人間の寿命を80年とすると、8倍の速さで年を重ねることになる。
飼い主であれば、大切なペットが健康で寿命を全うしてくれることを願うだろう。人間にも同じことがいえるが、病気は早期発見・早期治療がとても大切だ。前述の例で、犬の具合が悪いのに2週間放置することは、人間であれば4ヶ月放置することになる。
柏木先生は「人間の場合には定期健診をすることで病気の早期発見・治療ができますよね。ワンちゃんや猫ちゃんも同様、早期に発見できれば苦しい思いも少なくできるし、回復も早い」と説明する。
人間同様にペットが健康で暮らすためには定期健診が必要だと言える。
ペットを大切に思うのであればこそ、考えてほしい――柏木先生の願いだ。
3つのバランスを大切にしたオーダーメイドの動物医療
柏木先生は、次の3つの視点から、その飼い主さんとペットのためだけの医療を提供したいと考えている――。
1つ目は「西洋医学や伝統医学を組み合わせた統合医療」。
西洋医学は、はっきりとした症状や原因が明らかな病気に対して投薬治療を施すことが多い。または、外科手術により骨を修復したり、傷口を縫合したりする。
例えば、感染症には抗菌薬や抗ウイルス薬を使って原因となる細菌やウイルスを殺すことが、素早く効果的に治す方法としてはもっとも有効なものとされ、その通りの対処がされている。
ところが、数値で測りにくい漠然とした不調など原因が特定しにくい不調には対しては、治療法を決定するのが苦手である。原因が特定できずに単なる「対症療法」となってしまうことも多いようだ。
柏木先生も、特に救急疾患(骨折や腸閉塞など)において西洋医学は絶対に必要であるが、全てに対して「西洋医学的に」対応することに限界を感じことがあったという。
一方、東洋医学や自然療法というように分類されることもある伝統医学は、身体が本来持っている自然治癒力を引き出し、症状を改善する医学だ。西洋医学的な治療で対応できない場合でも、漢方・鍼灸などを組み合わせることで治療の幅が広がり、症状に対して優れた効果を示すことができる。
柏木先生は、いい意味で医療手段にこだわっていない。常に一番その子に合った治療方法を選択し、提案してくれる。
2つ目は「ご家族との対話」。
「やっぱりその方に合わせないと…」。柏木先生は家族との対話を大切にしている理由を話し始めた。
「飼い主さんはペットを大切に想うからこそ動物病院へ来られます。でも、その要望は様々。『薬を一切使いたくない』『最新の治療を受けさせたい』などがありますが、僕たちがそれを無視して勝手な治療をしてしまったら、きっと飼い主さんとの信頼関係はなくなってしまうでしょうね。同じ症状でも、治療をやりすぎても、やらなさすぎても駄目なので」。
どんな治療をするにしても、あるいはしないにしても、必ずその理由を飼い主にお話をし、一緒に治療方針を決めるようにしている。
3つ目は「動物たちそれぞれの性格に合わせた対応」。
複数のペットを飼ったことがある方なら、それぞれ性格は千差万別で同じ性格の子がいないことはご存知であろう。
「その子たちの様子を十分に観察して、できる限り苦手なことを避けて、その子たちにとって一番いい方法を考えています」と話す柏木先生。何が苦手なのかは、その子によって違うため、注射が苦手な場合には内服薬を使用するなど、その子に合わせた治療方法を提案している。
譲渡会への場所提供
美しが丘動物病院では、この10月から院内を譲渡会の会場として提供を始めた。
初めての試みについて柏木先生は、「ボランティアはまずは自分の生活基盤があるのが前提です。僕も自分の生活とか家族を犠牲にしてまで何かしようということはありませんが、無理のない範囲内で色々と動物達のためになることを考え、実行していきたいと思っています。
犬猫の保護活動を中心に行っているPEACE TAILSという団体さんに譲渡会の場所貸しをしています。小型犬の保護をおこなっている団体さんは多いのですが、この団体さんは珍しく、中型犬~大型犬が多いですね。今後も、2~3か月に1回場所を提供して譲渡会を開催しようと思っています」。
これからペットを飼いたいと思っている方へのアドバイス
犬や猫の問題行動に悩まされて飼育放棄する飼い主は決して少なくない。海外の研究チームの論文によると、「生後60日以降に分離された子犬と生後30~40日で分離された子犬とを比較すると、早く分離されたほうが、問題のある行動を示す可能性がより高い」と発表されている。
犬や猫の問題行動のリスクについては、柏木先生も「当たり前の話だけど、本来、親兄弟と一緒に過ごす過程で、噛みすぎたりしつこくし過ぎたりした時は叱られて覚えていきますよね?その期間としては、最低でも半年ぐらいはやっぱりかかる。
然るべき社会化…というか、ちゃんとした環境で育ってない犬というのは、やはり問題のある行動をおこす可能性が高い。なので、特に最初の時期というのは人間と暮らすためのしつけが絶対に必要」と説明する。
子犬、子猫をあまりに幼い時期に生まれた環境から引き離すと、適切な社会化がなされず、人への攻撃やかみ癖などの問題行動を起こしやすくなるのだという。しかし、柏木先生によれば、現実にそういった犬は多いという。
ペットを飼うなら、よく勉強してから覚悟を持って――動物の問題行動のリスクや習性などを理解した上で飼ってほしいというのが、飼い主とペットのことを真剣に考えている柏木先生からのメッセージだ。
病院の看板娘ニコちゃん
【柏木先生に聞いてみた】
今までどの位の頭数のペットを診察してきたのか?
「僕は、獣医師免許を取得した後、地方と都心部の両方で修業をしてから独立しようと考えていました。その理由としては、地方と都心部では外飼率や犬種など、ペットの飼い方が全然違うから。
静岡県の沼津と東京の高田馬場で3年間くらいずつ修業してから、この美しが丘で開業したのですが、年間で6,000~7,000頭でしょうか」。
犬と猫別の来院数はどのくらい?
「当院は8:2で犬だと思います。最近は猫が増えつつありますね。猫ブームになっているとか、犬は散歩に行かなきゃいけないとか、高齢の方が飼いやすいのもあって、猫へのシフト数が増えてきてはいますよね」。
そんな猫を飼っている人が来やすい動物病院とは?
「待合室が別になっていたり、パーテーションで区切られていて犬とは顔を合わせないで済むように、できれば静かな個室の待合室とか。診察室も猫と犬別の方がいいのでしょうね。
今後も猫を飼っている人が増えたとしても、今の待合室もかなり広いので、対応しようと思えば出来ると思います。特に猫飼いの人にはすごくいいと思う。一応、診察室が二つあって、同時に使うことはあまりないので、特に吠えるワンちゃんがいる時は猫ちゃんを小っちゃい方の診察室に案内してしまいますけどね」。
ペット安心相談室に賛同して頂いた理由とは?
「飼い主さんの中には、『この子が死んじゃったら次はない』とか、実際死んじゃった後『もう歳だから飼えない』という方がすごく多いです。ペット安心相談室が提案するように、『もし自分が先に亡くなってもペットが安心して生涯を全うできる』仕組みがあることで、その不安はかなり減ると思います。『じゃあまぁ、うちももう70過ぎたけど、まぁいざとなったらこういう受け皿があれば、その保護猫ちゃんをもらってこようか』という人が増えることで里親待ちの犬や猫が減れば、保護団体の人たちの負担も減るんじゃないかと。
僕らとしては60代70代の人たちもまだまだ元気だし、飼っている方がやっぱり認知症にもなりにくいし…という想いがあるから」。
安楽死を最終決断する飼い主の葛藤と獣医師としての立場
「重く、難しい問題です。安楽死は、飼い主・獣医の判断で呼吸を止める、ということだよね。末期がんなどで治療が難しく改善の見込みがない場合や治療を続けることで痛みと苦痛を引き起こす場合は、ペットを楽にしてあげたいと考えますよね。そういう決断をした飼い主さんに対して、獣医師の裁量で実行すると言うのは、必要なことだとは思う。
しかし、現実には、飼えなくなってしまったから安楽死してほしいという飼い主さんもいます。もちろん、すごくわがままな理由では受けないし、断ったこともありますけど。高齢化社会の今、高齢の方が余命宣告されて、ペットの引き取り手を見つけられる状態じゃないケースも少なくないようです。
誰かがやってあげないと、その子がより苦しむかも知れないし。安楽死を選ぶときの飼い主さんの気持ちとか、その結論に至るまでの家族の苦しみとか葛藤とかを僕たち獣医師が受け止めて、自分の中で咀嚼して、あなたは悪くないんだよ、ということを言わなくてはいけないと考えています。
そのことも、ペットを飼うときに後のことまでしっかりと考えて準備をしてほしいとお願いしたいですね。最悪のことを考えて飼い主さん一人ひとりが、ペット安心相談室に相談して準備してくれれば、悲しいことも減っていくと思う」。
【美しが丘動物病院を写真で紹介】
衛生的な診察室
診察ごとに消毒することを徹底することで清潔を保っている
超音波(エコー)検査ができる診察室
超音波を使って体の内部を観察することで病気の早期発見に役立つ
受付向こう側では・・・
検査スペースやお薬を出すための薬局スペースがなどが配置されている
レントゲン室入口
レントゲン検査は骨や関節の異常を確認したり異物を飲み込んだ時にも役立つ
ペットホテル①
ペットホテル②
預かっている間のストレスを最小限にするためには、それぞれのペットの性格や体調などにあわせた環境が必要。そのため部屋が2つに分かれている。ペットホテルを利用する時は獣医師から全身状態の健康をチェックしてもらえる
トリミング室
入口の左手にあるトリミング室。同院のトリマーさんは動物看護師としての訓練も受けており、ペットの体調に合わせて丁寧トリミングしてくれる。
トリミングの様子
スタッフの皆さん
当然と言えば当然だが、動物好きが集まってくる動物病院。同院のスタッフ全員が動物を飼っている。
柏木先生がこだわり抜いて作ったオリジナルフード(ワンちゃん用)
人が食べられないものを使っていない安心でおいしいこだわりのフード。スタッフ全員試食したところ、「素材の味がしっかりと生きています!」と大絶賛。
「とってもおいしいこだわりのオリジナルフードですが、いろいろとこだわって作ったのでちょっぴり値が張ってしまうのですが…」と柏木先生。
2018年6月24日(日)、美しが丘動物病院が場所を提供することで犬猫の譲渡会が開催された時の様子。
エース
唯一の1年越プレイヤーの〝エース(キジトラ♂)〟
怖がらせてしまった…。カメラが怖かったのかな、ごめんね…。
譲渡会にエントリーした「ピーステイルズ」さんの保護犬5頭
「ねこのようちえん」さんからエントリーの子猫たち10頭
2018年6月24日(日)の譲渡会の様子をブログにて公開しております!
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