猫の診療室モモ 取材レポート
東急大井町線・中延駅より第二京浜を戸越駅方面に徒歩3分、左手に顔を覗かせるのが
ピンク色と2匹の猫がトレードマークの『猫の診療室モモ』様である。
「猫の診療室モモ」は、女心をくすぐる愛らしいデザインで、良い意味で病院らしくない病院だ。
診療室の入り口
入口の扉を開けると、目の前で里親募集の猫たちが楽しそうに遊んでいる。
里親募集の子猫たち。
左下:あさり 中央:しじみ 右上:はまぐり。
2016年8月に開院したてのこちらの診療室では、ペットホテルや一時預かりに加え、里親募集の猫のため、キャットウォーク型のシェルタースペースまで設けられている。
笑顔がとても素敵な院長の谷口史奈先生は、子供のころから猫が大好きで、“猫たちが当たり前に医療を受けられる環境を”と、兼ねてより希望していた猫専門の動物病院を開院されたそうだ。
ご挨拶していると、谷口先生の腕についている、無数の引っ掻き傷が目に留まった。
思わず『辛くないですか?』と尋ねると、『暴れる子ほど可愛いと感じます!』と爽やかなお返事が返ってきた。
そんな猫への愛情溢れる谷口先生に、お仕事にかける想いを伺ってみた。
診察する子猫に優しい眼差しを向ける谷口先生
谷口先生が医療の道を志そうと思ったきっかけ
猫に携わる職業はいろいろと存在するが、その中で獣医師を選んだ理由として“活動のやりやすさ”が挙げられた。
『やはり、猫が好きだということ。それから、獣医師資格が無いと出来ないことっていっぱいありますよね。
病院という拠点がひとつあって、“どこどこの病院でこれこれをやっていて、こういう場合は猫ちゃんにこういうことをしてあげられます”という風に言えば、納得される方も多いしネコと飼い主さんのために医療活動がやりやすいんです。
ネットとかで検索しても、最終的には“獣医師に相談してください”と書いてありますよね。
やっぱり、“病院”というちゃんとした基盤があって、色々やっていけたらと思うんです。』…と、谷口先生は語る。
病院の雰囲気について
外装も内装もとにかく可愛らしい印象で、まともに動物を飼ったことがない私(佐野)でも抵抗無く溶け込める雰囲気である。そこにも谷口先生の想いがあるようだ。
『“病院らしくない病院”を掲げています。“気軽に来られる病院”というのをコンセプトにしています。雑貨とか、猫を見せたりとか、看板なども病院らしくないものにしています。』
“猫を飼う”ことについて
飼うときは、病気になる事や死んでしまうことを、あまり考えないで飼い始める人が多い。どこかでうっすらでもいいから、考えてから飼い始めるべきだと思うが…
『何かのコラムに書いてあったが、できれば、医療費を“月いくらまで”と決めておくとか。
万が一のことがあった時に…例えばそれがペット保険に入るとかでもいいと思うし、“月々いくらまで”と決めて積立をするのもいいと思う。
あとは、すごく重い病気になっても、数十万円までとか決めておくのもよし。
酷かも知れないけれど、予算を先にスパッと決めてしまって、それありきで相談できるような、診療できるかかりつけの病院を、病気になる前に作っておく…というのが一番いいと思います。
そうすれば迷うことも無くなりますし、きりがなくなって…ということも防げると思います。
ある程度、本当に最終的に、どれだけのお金をかけられて、どれだけの対価が得られるのか、という話になりますので。そういうことも、病気になる前からちょっとでも考えおけるといいかな、と思います。』
ペットも長生きするようになったことで、感じること
『選択肢が増えたことで、悩みも増えるのかと思います。実際に、安楽死を選ぶ方もいらっしゃいますし。
…最終的に、どれを選んでも若干の後悔は絶対します。
でも、飼い主さんが一番納得される方法…十数年ペットを見ている飼い主さんが、“この子が何を望んでいるか”というのは一番分かると思うので、その子の性格とか、これまで過ごしてきた暮らしを考えて、辿り着いた結論が一番正しいと思っています。
最終的な方針というのは、飼い主さんの方針に沿ってやるようにしています。』
“飼い主さんが辿り着いた結論が一番正しい”…獣医師ならではの、とても重みのある言葉だった。
谷口先生に聞いてみた
先生の考える、『猫にとっての幸せ』とは?
『まずは当然家があって、暮らせる安定した家があって、ちょっと何か気になる事があったら、飼い主さんがすぐに気付くことができる環境で、気になったら病院などのちゃんとした機関に相談できる環境が整っていることです。
当然、精神的なストレスも少なく快適であること。
あとはまぁ、ひとつ思うのは…飼い主さんが幸せであること。
飼い主さんが幸せなら猫も幸せかなぁと思います。
“この子のためなら私は1日1食でも!”みたいな方もいらっしゃいますが、そうではなくて、猫も飼い主さんも一緒に快適に心地よく暮らせる範囲内で、できることでいいと思います。』
普段お仕事をされている中で『よかったな』とか『やりがいがあるな』と思う事は?
『ここでのセミナーや譲渡会を通じて、患者さん同士が知り合いになってくださったりとか、交流の場になっていることです。
犬の飼い主さんは公園で会ったりする機会がありますが、猫の飼い主さんは会わないので…そこは普通の動物病院とはちょっと差を付けたいなと思っている部分です。
犬を飼っていたら見たら分かりますが、猫を飼っていることは分からないので。以前、20年来のお知り合い同士が偶然居合わせて、お互い猫を飼っているということを知らなかった、ということがあったんです。
この病院を拠点に、飼い主さん同士の交流が広がってくれると嬉しいなと思いますね。』
サポーターにご賛同頂いた理由は?
『そうですね…私の病院のコンセプトの一つに、“出来る限り誰でも猫を飼えるような環境 であって欲しい“というのがあるのと、病院で、猫たちが、当たり前に医療を受けられる環境であってほしいという、その二つがあって。
それで、ここはペットホテルが充実していたりするんですけど…。
一人暮らし・単身の方にも譲渡してくれる保護団体さんとかが、高齢の方や身寄りのない方にも譲渡できるような、安心してペットを飼える状態になっていて欲しいな、そして、飼ってほしいなと思っていたので、信託の仕組みはいいな、と思いました。』
便秘の子猫の浣腸を見学
一時預かり中の子猫ちゃん、便秘で何日もウンチが出ていないらしい。
小さなお腹はもうパンパン。『浣腸しましょう。』と谷口先生。
めったに立ち会うことの出来ない浣腸処置を見学させて頂いた。
嫌がってツメを立てる子猫。何とか浣腸しようとする先生。
数分間の奮闘の末、やっと詰まったウンチが流れてきた。
※浣腸は絶対に素人の判断で行わないでください。必ず獣医師からの診察を受けてください。
子猫の世話は数時間おきにミルクをあげたり…など、本当に時間と手間がかかる。
そのため、保健所だとすぐに処分の対象になってしまうのだ。
この日は偶然、子猫の譲渡が決まった場面に居合わせた3匹の子猫、“はまぐり”“しじみ”“あさり”のうち、“はまぐり”がアルバイトのスタッフさんに譲渡される貴重な瞬間を撮影。
動物看護師の山崎さんにインタビュー
なぜこの仕事をしようと思ったのか?
『命を扱う仕事であるため、手厚く看護するということはとても大事なこと思うんです。
その補助に携わりたいと思いました。』
重病な子も運ばれてきますよね?
『まだ日が浅いので、重病な子は経験していないのですが、しっかりとやっていかないと、
猫にも不安が伝わってしまうと思っています。』
やりがいは感じますか?
『やっぱり、入院していた猫ちゃんが日々よくなっていったり、ご飯もよく食べて、怪我を回復していく姿を見たときに感じますね。お腹を悪くしていた時にも、体調が良くなって、里親さんが見つかったりすると嬉しいです。』
今後の抱負
『患者さんの不安を少しでも和らげられるような対応をしたいです。』
【院内を写真で紹介】
●受付。とても可愛らしい
●猫雑貨も販売している
●診察台
●たくさん飲んで大きくなってね
●元気いっぱい!!